稲作気象指数(気温、日照時間、降水量)を利用した作況指数の予測方法
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稲作気象指数動向
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1. 稲作気象指数の動向 (全国一本)
ここでは、1991年から2007年までの期間について計算した全国一本の稲作気象指数の動向を折れ線グラフで示した。夏の気象(天候)の良否は早い段階から決まり、夏の盛りにはほぼその夏の稲作気象指数が決定されることが分かる。このグラフの上に赤の太い線で示したように、本年(2008年)の稲作気象指数を重ねて描くと、本年の気象の良否の推移が一目で分かる。このように、夏の気象(天候)の良否を稲作気象指数という一つの指標で表すと、多くの年次の複雑な気象経過を同じグラフの中で分かりやすく比較することができる。
稲作気象指数の計算の起点は7月1日としている。従って、この計算が始まって間もない7月前半までの動きについては一喜一憂しないことが肝要である。今年の気象の良否について一定の傾向が出てくるのは、梅雨が明けてしばらく経った8月になってからと思われる。8月以降になると特にそれまでの稲作気象指数を維持して”平行移動”する傾向があることから、夏の気象には、”慣性の法則”が働いているように思われることがある。この特性に着目すると、早い段階から作況予測が可能となる。なお、今後の気象は平年並みに推移するという仮定をおいた稲作気象指数を計算した方がよいのではないかとも考えられるので、その計算も付け加えることとした。ピンク丸の線がそれである。
ポピュラーな気象3要素の日別動向については、2008年気象経過グラフ(全国一本)をどうぞ。このグラフについては北日本、中部日本、西日本についても作成したので、どうぞ。なお、気象庁の電子閲覧室にアクセスすると、3気象要素別(気温、降水量、日照時間)の月別の分布図をみることができる。稲作気象指数の詳しい考え方については後述の5をどうぞ。
2. 稲作気象指数と水稲作況指数の回帰・相関関係(全国一本)
このグラフは、1991年から2005年までのデータに基づいて計算した上記の稲作気象指数(9月30日現在)と水稲作況指数(収穫期:農水省発表)の関係を相関図にしたものである。両者の関係は直線的ではなく2次曲線的であることが分かる。相関係数は、0.9573と比較的高いが、誤差は9月末の段階で2.4ポイントあり、ちょっと大きいが、この種の手法では比較的小さいものと思われる。この誤差は、7月の始めの段階は7〜8ポイントとかなり大きいが、7月中旬頃からは小さくなり始め、8月になると3ポイント程度と小さくなっていき、9月末頃になると2.4ポイント程度となる。この推計式を使った作況指数の推計値には、このような誤差があることを知っておくと、利用に当たってのリスクを覚悟することが出来る。詳細は、誤差の動向グラフをどうぞ。この誤差については作況指数の動向のグラフの中にも書き込んだので分かりやすくなっていると思う。
3. 稲作気象指数から推定した水稲の作況指数の動向(全国一本)
これは、1991年から2008年までの期間について、全国一本の稲作気象指数から2で述べた式を用いて推定した水稲の作況指数の動向を折れ線グラフで示したものである。水稲の作況指数は8月の半ば頃にはほぼ大勢が決まるといってよいことが分かる。この推定値には上に述べた誤差が含まれている。2008年の稲作気象指数の動向から推定した水稲作況指数の動向、推移は赤く太い線で示した。
また今後の気象が平年並に推移するという仮定で推計した作況指数についてもピンクの太い丸の線で付け加えた。
なお、5の(4)に述べるように、年によっては降水量の影響が強く出すぎる恐れがあることから、気温と日照時間の2要素から予測した作況指数について、別途計算しておくこととした。
4. 稲作気象指数から推定した作況指数と実際の作況指数の関係(全国一本)
これは、1991年から2005年までの期間について、稲作気象指数から推定した作況指数と農林水産省が発表した実際の作況指数の関係を折れ線グラフで示したものである。時々両者が乖離している年次がある。これが、2で述べた誤差である。平均気温、日照時間、降水量の3要素に最大風速を加えた4要素で稲作気象指数を作成して予測すると幾分改善される面があるが、相関係数は低くなることがある。当研究所では3要素から作成した稲作気象指数から推計することとした。
5. 参考 稲作気象指数について
(1)水稲の作柄(生育状況や作況指数)は、夏の気象(天候)の良否に支配されていることは自明のことであるが(例えば、高温・多照の年は豊作となり、低温・寡照(日照不足)の年は不作になる)、稲作気象指数とは、この水稲の作柄を大きく支配している夏の気象(気象)の良否を単純な一つの数字(指数)で評価した数値である。従って、もしこの指数がよければ水稲は豊作になり、悪ければ不作になるというものである。古来、多くの研究者がこのような意味をもつ「気象指数」を開発してきたが、多くの研究業績は埋もれたままになっており、また、リスクもあることから実際の作柄予想という面ではあまり活用されていない。
(2)ここでいう稲作気象指数は、そうした気象指数の一種で、7月から9月にかけての日本の気象状況を、気温が高く日照時間が多ければ、そして降水量は少なくなれば豊作になり、反対に気温が低く、日照時間が少なく、そして降水量が多くなれば不作・凶作になるということに着目し、7月1日を起点とした気象3要素の積算値について、偏差値計算の方法に準じて標準化を行い(但し、降水量については、逆変換した偏差値を用いた)、それらの値を平均して稲作気象指数としたものである。いわゆる偏差値50はここでは気象指数100に相当するように、偏差値60は気象指数110になるようにしてある。このため、稲作気象指数が100の時は作況指数は平年作の100程度となることが予測できる。この稲作気象指数は、任意の地域について作成することが出来る。例えば全国一本の稲作気象指数は全国から50地点ぐらいの地方気象台を選定し(ただし沖縄県分は除いた)、いわば全国一本という仮想気象台をパソコンの中に建設して、それらの観測データを平均・総合化することにより計算できることがこの研究の特色ともなっている。同様に日本の気候区分、あるいは農業地域区分を踏まえた稲作地帯区分ごとの気象指数も計算することが出来る。気象データは気象庁の電子閲覧室から入手できる。作況指数データは農林水産省のHPから入手できる。
(3)こうして計算された過去の稲作気象指数は、農林水産省統計部が標本実測調査(いわゆる「坪刈調査」)結果に基づいて発表した作況指数と2次式の関係にあり、相関が非常に高く、そこから推定された作況指数は、誤差を伴っているものの、一種の作況予測情報として利用できるものと思われる。
このように稲作気象指数による作況予測の考え方は、重回帰モデルと異なって、非常に単純であり、何処でも何時でも同じモデルを使っていることが特色である。収量水準の決定に係る地域差、品種差、生育ステージの差、収量構成要素の差等についてはほとんど無視しており、更には平年単収の水準にも注意を払わずに作況指数だけを予測しており、あいまいなデータ処理方法かも知れないが、稲作重要期間の気象と作況指数について、何もかも平均化され、一本化されたデータから現象的統計的真実関係を見出そうとするものである。
このことから稲作気象指数は、漠然と総合的に人が感じる天候の良否を統計的な指標として表したものともいえる。
(4)更に、この予測手法は、気象3要素だけを指標としていることから、風台風、潮風害、特定時期の障害型冷害など特異な災害時には、このモデルの弱点が出ることがある。このため、台風の多い西日本、冷害の多い北日本では、予測誤差が大きくなる時がある。これは、こうした予測手法の宿命みたいなものであるが、その誤差も統計的な確率で覚悟できること、別途、農水省の作況調査結果、都道府県の試験研究機関でなされている実測調査結果、関連する新聞記事、現地生産者等の見解を踏まえながら、頭の中で補正して利用する必要がある。今年は、梅雨期末期に大雨が降っており、この影響が計算上大きく出てしまい適切な予測値とならないことが心配されるが、このような時には、降水量の影響を除いた2要素による稲作気象指数を求めて、それを用いて作況指数を推定してみるというのも一つの方法である。参考までにこの2要素からの計算結果を求めてグラフにしてみた。細かくみると大雨の影響が強めに出ているが、3要素から求めた場合と余り変わらない結果となっている(この2要素によるグラフを見る)。また、稲作気象指数の計算期間を7月〜9月としている点についてもいろいろ議論があるが、ここではこの3ヶ月の天候を最も重視する観点から7月〜9月としている。
2006年の潮風害に関して(11月7日)
今年の稲作気象指数からの作況予測に関しては、上記で記述したように風台風・潮風害時(9月17日・台風13号)による作柄低下を十分に反映しきれず、降水量のみで台風の大きさを捕らえようとしている本モデルの弱点がもろに出てしまったと反省している。特に佐賀県では作況指数49というものであったが、台風時に雨を伴わない海からの強風が吹いた時は、相当な潮風害がでることを警告しておけばよかったと今思っている。頭の中では分かっていながら、全国推計という建前と誤差の範囲内に入るものと(結果は誤差の範囲内ではあったものの)何もしないでいた。1991年(9月27日・台風19号)にも同じようなことが起き、その記憶があったにもかかわらずである。その年の作況指数は64であったのである。グラフをみると時期とコースが似ており、強風が吹き、降水量が少なかった点で共通している。また、ここには示さなかったが一番風が強い時に南(有明海)からの風が吹いていることも共通点である。今年の台風は1991年よりも10日程早く、風も強かった上に、台風後にも全く雨が降っていない点で、1991年よりも大きな被害となっている。(気象データはアメダスデータ)。2006年11月6日記。
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なお、最近では2004年の台風15、16号により新潟県の佐渡でも大きな潮風害が発生しているので、参考までに佐賀の場合と同じグラフを作成してみた。ちなみに佐渡の作況指数は51であった。この年は秋田県でも同様に大きな潮風害を受けている。
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(5)このように、本研究所が予測する作況指数については、過去のデータの分析結果から統計学的分析手法に基づいて予測したものであり、現場の実測調査に基づいたものではないことから、農林水産省統計部が詳細な実測調査に基づいて発表する作況指数と比較できるものではないが、稲作気象指数の動向とそこから推定される全国一本の作況指数の大勢を早い段階から日別にモニタリングしていることから、水稲の「生育情報、作況情報」としてばかりでなく、一種の「農業気象情報」、「豊凶要因分析情報」、「稲作技術情報」として、あるいは「Early warning 情報」としてご利用いただければ幸いである。
6. 水稲の10a当たり平年収量、10a当たり収量、作況指数の長期動向グラフ(1883年以降)
参考までに、水稲の10a当たり平年収量、10a当たり収量、作況指数の長期動向グラフを示した。この図を見ると、10a当たり収量が着実に上昇してきたこと、それと併行して収量の技術水準を表すともいわれる10a当たり平年収量も上昇してきたこと、作況指数は100を中心に上下変動していることがよく分かる。この作況指数の上下変動をもたらすものは、台風、豪雨、低温・日照不足、高温障害などの気象被害の外にいもち病やめい虫などの病虫害があるが、その大部分は気象被害によるものであり、稲作気象指数の良否によるものと考えることが出来る。
7 観測開始からの気象データとグラフ(東京)
もう一つ参考までに。 2006年6月26日に、気象庁の「電子閲覧室」に「観測地点ごとに観測開始からの毎月の値と年の値を表示できる一覧表」が追加表示されたことから、桜の開花予想や水稲の作況予想に重要な時期の時期の気象のグラフがデータ収集からグラフ作成まで10分とかからずに出来るようになった。米どころである札幌・長野・佐賀の夏の平均気温の長期統計グラフも簡単に作成できた。ありがたいことである。分析環境に「パラダイムの変化」が進行している。上記6のデータと組み合わせるとこれまでデータ収集にかかっていた大変な労力から開放され、快適な分析ができることとなった。地球温暖化と単収上昇の関係を表すグラフも同様に簡単に出来た。
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